気分障害について
気分障害(狭い意味での)は、大きく分けてうつ病性障害と双極性障害(躁うつ病)に分けられます。
気分障害の診断分類
うつ病性障害
うつ病性障害は、普通、うつ病と言われるもので、過去および現在を含めてうつ病エピソードまたは軽うつエピソードのみ存在し、過去及び現在に躁病または軽躁エピソードが存在しないものを言います。
単極性うつ病と言われることもあります。
双極性障害
双極性障害は、過去及び現在に躁病または軽躁エピソードが存在するものを言います。
双極性障害は、現在、双極性Ⅰ型と双極性Ⅱ型および気分循環性障害に分けられています。
双極性Ⅰ型障害
双極性Ⅰ型は、過去および現在に本格的躁病エピソードが存在するものを言います。うつ病エピソードは存在してもしなくてもかまいません。
双極性Ⅱ型障害
双極性Ⅱ型とは、一つまたはそれ以上のうつ病エピソードがあり、それとは別に軽躁エピソードを伴うものを言います。
気分循環性障害
気分循環性障害は、軽躁と軽うつエピソードを繰り返すもので、本格的なうつ病エピソードや躁病エピソードが存在しないものです。
うつ病エピソード
主な症状は気分の低下と意欲・活動性の低下および悲観的・否定的思考の3つです。
それぞれもう少し詳しく説明します。
うつ病エピソード1:
気分の低下
気分の低下または抑うつ気分は、いろいろな言葉で表現されます。
多い表現としては、悲しい、落ち込んでいる、どん底、真っ暗闇、ブルーと言った表現のほかに不安、落ちつかない、具合が悪い、頭が重い、いらいらすると言った単なる不快気分として表現されることも多い。
客観的にも表情に活気がなく、肩を落とし、しょんぼりした状態が続きます。
涙ぐむことや場合によっては理由もなく泣きじゃくることも多い。笑いが無くなる。この1カ月間笑ったところを見たことがないという家族の証言はうつ病を確信させます。不安も強くなり、一人で決める事ができず、何でも人に頼りたくなります。気分の低下は、午前中が悪く、夕方から夜にかけて少し元気になることがあります。これを日内変動と言いますが、うつ病の人全員に見られるわけではありません。
うつ病エピソード2:
意欲・活動性の低下
意欲や活動性の低下も重要です。
今まで生き生きとできていた仕事や家事や育児が楽しくなくなり、つらく苦しいものになります。気力や意欲が低下しているのが自覚できます。家族に対する愛情や関心も低下し、場合によっては憎むことさえあります。
それでも初めのうちはレジャーや楽しみで気分転換を図ったりすることができますが、うつ病が重くなるとレジャーや楽しみからも安らぎを得ることができなくなります。
また以前なら楽しめていた娯楽やスポーツも楽しめなくなります。さらに重くなると仕事や家事もできなくなり、寝たきりに近い状態になります。性欲も低下し、異性に対する関心が低下します。
うつ病エピソード3:
悲観的・否定的思考
悲観的・否定的思考もうつ病に特徴的です。
自分に対して自信がなくなり、自分は駄目で、無能な人間で、弱い人間だと自分を否定し始めます。また自分が悪いから皆に迷惑をかけている、自分の失敗で会社に損害を与えた、自分が足を引っ張っているなど自分を責め始めます。
将来に対して悲観的となり、自分の病気はもう治らない、家族も路頭に迷ってしまうなど悲観的、絶望的となります。悪い方に悪い方に思考が転げ落ちていきます。
その結果、死んだ方がましだと絶望感に変り、自殺へとつながります。
日本では年間3万人以上の人が自殺で亡くなりますが、その7~8割はうつ病または気分障害が原因と言われています。
以上のようなうつ病に特徴的な症状の他に食欲低下、不眠、頭痛、頭重、胸痛、目や喉の痛みなどの心因性疼痛、便秘などの身体的症状もでることがあります。
躁病エピソード
躁病エピソードは異常に高揚して誇大的な気分またはいらいらした怒りっぽい気分が最低1週間以上持続するか、または期間が短くても入院が必要な程であることと定義されます。
さらにその気分の異常な期間に次のようなことが認められます。
- 自己評価の上昇、または誇大性
- 睡眠欲求の減少
- 通常よりも多弁になるかまたはしゃべり続けようとすること
- 観念奔逸または主観的には考えが頭の中で競争している体験
- 注意易変(すなわち注意が不規則な重要でない外部の刺激で容易に変り、話しも変わる)
- 目標指向性の活動の増加(社会的活動、学校での活動、または性的活動などで)または精神運動興奮
- 痛みを伴う可能性のある活動に対して熱中すること(例えば乱費、性的無謀、無謀な投資など)
軽躁エピソードは、躁病エピソードよりは程度が軽いものを指します。
その違いは分かりにくいのですが、普通よりも活動的でおしゃべりで、自信に満ちた態度など、明らかに通常の状態とは違うことと、しかし入院するほどではないことと定義されます。
欧米語の躁状態を表す言葉はmaniaですか、これは元来、気が狂っているという意味で、今でもカーマニア、スピードマニアと言う風に使われます。
要するに躁状態とは、単に気分が上がっているだけでなく、常軌を逸して狂ったような状態になることを言います。
躁的気質と抑うつ気質
軽躁エピソードと正常気分の間に躁的気質として、性格と見分けがつかない程度のさらに軽い軽躁状態を設定することもあります。同様に正常気分と軽うつエピソードの間に性格と区別がつかない程度の軽い抑うつ気分を抑うつ気質と言うことがあります。
双極性スペクトラム(Akiskalによる)
Fieve と Dunnerにより1970年代、双極性Ⅰ型障害とⅡ型が区別されてから、上記の気分のいろいろな段階を上下する変調状態を双極性スペクトラムとして定義する試みがあります。
以下は一番有名なAkiskalの提唱する双極性スペクトラムです。
これらは、一見専門家でも首を傾げたくなるよう名付け方ですが、このようにいろいろな型の双極性障害があると認識することで、以前は双極性障害があるのに見過ごされていたケースが正しい診断を受けるようになり、ひいては正しい治療を受けられるようになっています。
例えば双極性スペクトラムの患者さんのうつ状態や不快気分に対して、最初はもちろんSSRIなどの抗うつ薬は使いますが、効果がない場合、やみくもに量や種類を増やすのではなく、気分調整薬や非定型抗精神病薬の投与も検討すべきなのです。
また他のいろいろな疾患や状態と合併している場合は、見逃されやすく、適切な治療が受けられないことがあります。合併した場合、見逃されやすい疾患や状態としては、薬物依存、アルコール依存症、ADHD(注意欠損多動性障害)、甲状腺機能障害、境界性人格障害などのパーソナリティ障害などです。これらの疾患や状態に双極性スペクトラムの障害が合併すると病像が複雑となり、診断がなかなかつかず、治療がうまくいかないことがあります。
双極性1/4型
うつ病エピソードのみの存在であるが、抗うつ剤に対する反応が2、3日で出るなど通常の反応と違う反応を見せる。また抗うつ薬が効いても気分の軽快は長続きせず、すぐにまた息切れしてうつ状態となる。これは次の双極性½型と同様双極性障害に入れるかどうか疑問視されているが、この型は抗うつ剤よりも気分調整薬の方が効く可能性がある。
双極性1/2型
統合失調双極性障害または統合失調感情障害と言われるものである。
双極性Ⅰ型
双極性Ⅰ型は、過去および現在に本格的躁病エピソードが存在するものを言います。うつ病エピソードは存在してもしなくてもかまいません。
双極性Ⅰ型1/2型
軽躁のみのエピソードでうつのエピソードを伴わない。
双極性Ⅱ型
一つまたはそれ以上のうつ病エピソードがあり、それとは別に軽躁エピソードを伴うものを言います。
双極性Ⅱ型1/2型
循環気質の人が大うつ病エピソードを伴った場合。
気分循環性障害
軽躁と軽うつエピソードを繰り返すもので、本格的なうつ病エピソードや躁病エピソードが存在しないものです。
双極性Ⅲ型
単極性うつ病と思われていた人が抗うつ薬の副作用として躁転し、躁状態または軽躁状態になった場合。
公式にはⅠ型ともⅡ型とも診断できないが、やはり双極性スペクトラムとうした方が良い。
双極性Ⅲ1/2型
双極性障害に薬物依存が伴った場合。複雑である。
双極性型Ⅳ型
躁気質の人にうつ病エピソードが起こった場合。
双極性型Ⅴ型
うつ病エピソードに軽躁が混合した混合状態。
双極性Ⅵ型
基盤に認知症があると思われる双極性状態。
気分の変動に続いてイライラ、注意の障害、意欲の減退、不眠などの認知症症状が目立ってくる。
病院長小原 喜美夫
気分の異常は、本人も家族もまた時にそれを治療する医師にも見えにくいときがあります。不安、イライラ、自傷行為、過食、拒食、対人恐怖、性的逸脱、他人との口論、トラブルなど個別の具体的な症状に捕らわれると特に見えにくくなります。
個別の行動や個々の症状を詳しく見るのではなく、全体を大雑把にボーッと見るようなそんな見方が必要になります。